謎の低インフレ、5つの理由。インフレの原則は崩壊したのか?

 

sa-2
こんにちは。

sa-2(@sa2fdi)と申します。

 

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為替相場を語るに欠かせない要素がインフレです。

近年では日本がデフレ脱却できないことは「不可解」、アメリカが完全雇用となっても低インフレであることは「謎」だとして、マーケットの注目点になっております。

 

我々人類が積み上げてきた「経済学」はインフレを全く理解できていなかった、とすら表現される現在のインフレ状況と、インフレの基礎について解説します。

 

為替相場の基礎から知りたいときは、以下の記事から。

 

 

本題については、目次の「低インフレの謎について」からご覧ください。

 

 

インフレの基礎について

 

まずインフレの原則は、「供給<需要の状態」です。

需要が超過することによって値段が上がり、企業の利益・労働者の給料が上がり、消費が刺激されてまた値段が上がる。

このようにお金の流れが加速され、経済活動が拡大されていく状態のことをインフレーションと呼びます。

インフレ状態のとき、消費者の心理は次のようになります。

「モノの値段が日に日に高くなっているのだから、今のうちに買おう。」

物価の上昇局面では、相対的にお金の価値は下がっていくことになるので、保有しているお金はなるべく早く使ってしまうことが合理的な選択となります。

このようにしてインフレはさらなるインフレを呼び、スパイラルと呼ばれる循環状態に入るのです。

 

 

 

政府主導のインフレとその出口

 

インフレを意図的に起こすにはいくつかの手段があります。

政府主導でインフレを誘発するには、最終的に「貨幣の市中供給量を増やす」ことが目標になります。

市場に出回るおカネの量が増えることで消費行動が加速し、モノの値段とともに給料も上がっていきます。

貨幣の供給量を増やす具体的な手法は大きく分けて2つ。

  • 中央銀行が金利を下げる

金利が下がればそれだけ銀行が日銀に預けているお金を企業に貸し出すため、市場に出回るお金が増えます。

日銀は2016年にマイナス金利政策を導入し、大規模な金融緩和に打って出ました。

 

 

  • 中央銀行が市場から国債等を買い入れる

中央銀行は金利を操作することによって間接的に貨幣の流通高を増やすだけでなく、各金融機関が保有している国債等の金融商品を買い入れる(買いオペレーション)ことで、金融機関に直接お金を流すことができます。

金融機関は保有している預金が増えればそれだけ企業に貸し出すため、結果として市場に出回るお金が増えることになります。

 

このようにして貨幣供給量を増やすことで、政府は意図的にインフレに誘導することができます。

しかし、通常の景気上昇によってもたらされるインフレとは違って注意しなければならないのが、「金融緩和余地」についてです。

景気が下向きになっているところを金融緩和で強制的に上向かせているというリスクについて考えなければなりません。

例えば何か経済ショックが起きたとき、政府は景気の減速に伴う金融恐慌を回避しなければなりません。

そのときに政府がとるべき行動が「金融緩和による景気刺激」です。

ところが、現状のように最大限に金融緩和を行っている状況で、大きく景気が落ち込むような外部的事象が発生した場合はどうなるのでしょうか。

これ以上金融緩和の余地がない中で有事が起これば、日本経済は混乱に陥ることが予想されます。

そんな事態を防ぐために考えなければならないことが、金融緩和からの「出口戦略」です。

いつまでも緩和に頼らず、徐々に金利を上げたり国債の買い入れ額を減らしていき、金融引き締めを行わなければならないのです。

しかし日本は緩和政策によって思うように物価が上がらずに出口を見つけられないままでいるという状況なのです。

対して米国は段階的に利上げをし始めましたが、インフレ率の低迷から慎重なスタンスを変えることができていません。

 

 

 

インフレを目指すべきなのは誰だ?

 

インフレで有利になるのはお金を持ってない人、もしくは借金を抱えている人です。

借金の額面は変わらずとも、物価が上がることによって相対的に借金の価値は減少するからです。

日本という国家は莫大な債務を抱えているため、インフレを目指すべき立場にあるのです。

インフレは、程度の差はあれどその他の先進国でも目指すべき状態であるといえます。

 

以下は、「為替相場の七大要素とは?ドル円相場、基礎の基礎」から。

先進国は、得てして財政赤字に陥りやすいという特徴を持ちます。

それは、政権を維持するため、景気を底上げするその場しのぎの財政出動を政府が行うからです。

政権維持を主眼とした場合、国民のご機嫌とりのために負債を将来世代へ転嫁していくことが、政府にとっての合理的な行動になってしまうのです。

 

多くの先進国はこのようにして借金を抱えているため、インフレのほうが好ましいのです。

緩やかなインフレは経済活動を活発化させ、国の安定的成長を促します。

難しいのは、インフレを「緩やかな」段階でとどめることです。

先ほども述べた通り、インフレはインフレを呼び加速していく傾向にあるため、加熱しすぎないように注意しなければなりません。

行き過ぎたインフレがもたらすのは、資産の消滅です。

貨幣の価値が目減りしていく中、人々は我先にと消費活動をしてインフレを加速させてしまいます。

インフレを抑えるには、人々が結束して消費活動を少しの間我慢するだけで十分です。

しかし一人ひとりは自分の利益のために行動するため、このような仮定には意味がありません。

このように、個人が合理的な選択をとることによって、結果として悪い状態に陥ることを「合成の誤謬(ごびゅう)」と言います。

マクロ経済学初級の教科書で一番最初に習う言葉です。

マクロ経済学は、この合成の誤謬によって達成できない「全体としての合理的行動」を、政府や金融当局の力でどのように達成していくか、というところに大きなポイントがあるのです。

 

 

低インフレの謎について

 

ようやく本題に入ります。

日米の経済は金融緩和の甲斐もあり、緩やかな上昇を続けております。

両国とも雇用は堅調に回復し、ほぼ完全雇用を達成するほどに労働市場は逼迫しております。

 

労働市場とインフレ率は密接な相関関係にあると古くから経済学者によって示されています。

失業率とインフレ率の間には負の相関、トレードオフ(失業率が上がると賃金が下がり、失業率が下がると賃金が上がる)の関係があると言われており、これは長らく経済学の原則だと考えられてきました。

以下のフィリップス曲線という失業率と賃金上昇率のグラフがその原則を示しています。

この関係は直感的に考えても納得感のいくものです。

人手が足りなければ賃金を上げて募集し、人手が足りていれば賃金はその分下げるというインセンティブが経営者に発生しそうなものです。

では、なぜ雇用が回復し、労働需要が上がる中で賃金だけが上がらないのか。

以下で理由を考えていきます。

 

 

経済のグローバル化(中国の貿易事情)

 

経済のグローバル化が低インフレの1つの要因になっていることは間違いないと思われます。

特に影響が大きいのは近年急速に経済活動を拡大させ、減速していった中国です。

中国は国家主導のもと「強い中国」を作り上げるために、過剰なまでの投資を続けてきました。

それは決して効率的とは言えない面もあり、一旦内需が低迷した途端に国内での供給過剰があふれ出すお粗末なものでした。

国内で売れない分は無理やりにでも海外へ輸出してしまえという方針のもと中国は輸出拡大を続けました。

結果として大量に安く売りだされた中国商品が、世界的な値崩れを引き起こし、各国企業の低収益化をもたらしました。

 

 

労働市場のグローバル化

 

前項で扱ったように、中国だけでなく多くの先進国が新興国との貿易を活発に行い、経済のグローバル化を進めています。

経済拠点の分散化に伴い、新興国の安価な人件費を先進国が利用するという労働市場のグローバル化も進みました。

 

またしても影響が大きいのは中国です。

中国は世界の工場と呼ばれていましたが、その段階は実はとっくに過ぎています。

2017年現在、アメリカの物価を見ると、家具・おもちゃ・スポーツ用品など中国からの輸入品の価格が下落しています。

これらは、実は中国がより賃金の安いバングラディシュやパキスタンなどに工場を移し、人件費を安く抑えていることが原因なのです。

このように、中国が世界の工場である時代は終わり、さらに賃金の低い新興国へ工場が分散されていっていることが、低インフレの大きな要因となっています。

 

前二項で中国を例に出しましたが、これは先進国全体に当てはまることです。

先進国の多くが、経済成長のある段階で、人口増加率の低下とともに内需の低迷に悩まされるフェーズに入ります。

外需を新規に獲得するために先進国が考えることは、新興国の経済活動を自ら盛り上げてマーケットを作り上げてしまうということです。

このようにして、貿易の相手として、また経済活動の拠点として新興国を選ぶのです。

これが先に挙げた中国の事例のように、商品の低価格化・賃金の低下に繋がります。

グローバル化によって大きなマーケットを手に入れる代わりに、先進国は低インフレの要因を自ら作りだしてしまっているのです。

 

 

Amazonの台頭による企業の価格決定力の低下

 

eコマースの普及により、消費者は自身の環境に左右されることなく、販売元を一元的に比較しながら買い物ができるようになりました。

これは、消費者が不当に高値掴みをすることが少なくなったと言い換えることができます。

Amazonが台頭することでニッチな業界においても競争が生まれ、各企業が主体的に価格設定する力が弱まったのです。

このことによる物価上昇を抑える効果が、現在の低インフレに影響しているのです。

 

 

ギグ・エコノミーの成熟による労働者の交渉力・生産性低下

 

「ギグ・エコノミー」とは、雇用関係を持たずにインターネットを通じて単発の仕事を請け負う労働市場のことを言います。

AirBnBやUberなどが有名で、ネット上のプラットフォームに登録して個人で労働力を提供すること、または空き部屋や自動車の空席などの資産を共有すること(シェアリングエコノミー)で生活している人が今爆発的に増えています。

このギグ・エコノミーは、ネットさえあれば雇用関係に縛られず自由に働くことができる素晴らしいエコシステムですが、相応のデメリットも忘れてはなりません。

雇用関係に縛られないということは、自由である一方、労働者としての立場を弱めることになりかねません。

労働法に守られにくく、また労働組合による保護も受けることができないのです。

さらに、雇用状態にない人の仕事は得てして生産性の低い仕事を生み出してしまいます。

登録制によるアカウントの信頼性を保つために、労働者は生産性の高さを保証するインセンティブがありますが、例えば副業程度の気軽な関係では責任感が生まれずらく、その限りではありません。

これらの状況により、労働者の交渉力低下・生産性低下を招き、結果として賃金の低下・物価の下降圧力が強まるのです。

 

 

技術革新による労働分配率の低下

 

労働分配率とは、生産された付加価値に対して労働者が受け取る賃金の割合を指します。

労働分配率の低下は、格差の拡大・賃金の低下を意味します。

工場のロボット化によって、労働者がより生産性の低いサービスセクターに押し込まれるということはよく言われてきました。

次に注視しなければならないのが、AI化による労働人口の生産性の低下です。

AIに職を奪われた人が、より生産性の低い仕事を選ばざるを得ないという状況が迫っています。

AI化による、金融機関の人的資本縮小が取り沙汰されていますが、その他の業界に派生していくことは確実でしょう。

 

 

 

これらの要因が複雑に絡み合い、現在の低インフレ環境が生まれているのです。

雇用状況が改善すれば物価が上がるというインフレの原則は崩壊し、多くの経済学者をして「謎」と言わしめました。

マーケットは歴史から学ぶこともできますが、いつでも「人類が出くわした初めての状況」に立ち向かわなければなりません。

あらゆる側面から基礎を学び、自分なりの仮説を立てて考えることが大切です。

 

 

23歳の筆者が今、一番伝えたいこと。

仮想通貨を自分の中でどう整理つけるか、答えを出せていない人は是非読んでください。

資産運用と経済の観点から、仮想通貨について考えています。